十五夜

「う〜さぎ うさぎ 何見て跳ねる 十五夜お月さん みてはぁ〜ね〜る♪」

 高台から、空を見上げて歌う…子供の声が夜空に吸い込まれていく。

「何歌ってるんだ?」

 足音とともに、レイがやってきて声をかけた。

「十五夜の歌だと思う、名前なんてしんないし」

 視線は空を向いたままで、よくわからないと首を傾げて答えるタカオ。

「何でそんな歌うたってたんだ?」

 じゃあ、なんでその歌を歌っていたか不思議に思えた。

「ん〜、十五夜だったから」

 空に浮かぶ、月をさして言う。

「その歌、、好きなのか?」

 そう言えば、そうだな。
でも、その歌を選んだ理由は何なんだ?

「そう言う、訳じゃないけどさ…とくには」

 聞かれても、ちょっと返答に困ること。

「なんか、哀しい歌だな」

 本来は、哀しい歌ではないのだろうけど…さっき響きわたっていた声は確かに哀しい歌なきにさせたのだ。

「うん、寂しい…哀しい歌」

 そう言って、タカオはいつもみたいに笑った。
心に、寂しさと哀しみを閉じこめて。

「月が好きだからか?」

 それでも、その歌を歌っていたのは。

「ん、そっかもな…俺、月好きだし」

 理由は、レイの瞳の色に似ているからなんて言えないけど。

「なんで、月が好きなんだ」

 月は、美しいと詠われるけど手が届かないモノの象徴ともいうのに。

「月が、とっても寂しがってるから」

 レイの迷い、故郷への強い思い。

「寂しがってる?」

 月が寂しい?

「月が呼ぶから兎は月に行こうとしてるんだと思ってた」

 この歌にもあるとおり、月をみて月に跳ねるんだ。

「思ってた、過去形か?」

「なんか、違う気がしてさ」

 夜空を、見上げて。
だから、気が付いちゃった…レイに、俺が居なくちゃ寂しいって思って欲しいって事
そして、俺はレイが居なくなるのが寂しくて哀しくて辛いと言うこと。

側にいて欲しいのに
いつでも抱きしめられるくらい側に

「どうして?」

 一瞬、自分の思いを見透かされたかと思った…。

ずっと側にいたい
一族のこととか忘れて
ただ二人だけで

「本当は、兎が月に魅せられて…側にいこうと願うんだ」

 月が寂しいく見えるは、兎の願い…寂しく思ってて欲しいんだ
同じように自分の存在を望んで欲しいって思ってる。

「それだけじゃないさ、月も寂しいんだろうさ…きっと」

 側にいることが叶わない、己にはまるで手の届かない存在になる。

「なぁ、俺と離れる日が来たらレイも寂しいって思う?」

 夜空を見上げていたタカオは、レイを見つめる。
いつか離れていくことを、前提にしているような言葉。

「寂しい…」

 離れる事なんて、考えたくもない。

「俺は、寂しくないよ」

 これは、嘘…。
けど、レイには一族がある…俺と、一族と迷わせて困らせたくないだけ。

「俺が、側にいなくなっても…お前は、寂しくないのか…」

 無様に、声が震える…。

「寂しくない」

 すぐにでも、泣き出しそうになるのを堪えて突き放す…嘘を吐く。

「どうして…」

 視線を合わせてるのに、耐えきれなくて…そらして。
言葉ともとれないような、小さなつぶやきがこぼれる。

「じゃあ、どう言って欲しいって言うんだよ…」

 泣けば困るくせに…帰っちゃうくせに…。

「……俺が居ないと、寂しいって言って欲しい」

 目が、涙に滲んで…見せたくなくて、タカオを強く抱きしめる。

「寂しいよ、レイが居なくなったら…寂しい」

 まるで、オウム返しのよう…。
心なんて感じさせない、けど本音。

「もっと…」

 嘘でもいいから、何度も言って…寂しくないなんて、俺が居なくてもいいなんて言わないでくれ。

「寂しいから…ずっと側にいて」

 微笑んで、言葉を繰り返す。
抱きしめられた、腕はそのままにレイの頬を両手で包むようにして瞳をあわせて…綺麗な瞳からこぼれる涙を拭うように
口付けを落とす。

「タカオ…」

 なぁ、それが本音なのか?
俺が言わせた言葉、本音だったらいいのに…。

「レイ」

 レイの涙がみたいんじゃないんだ…だから、本当は泣いて欲しくなんかないのに…。
こぼれる涙を、すくい取る。

「タカオ、タカオ…」

 もう、その言葉しか知らないように…タカオの名前を繰り返す。

「そんふうに、泣かなくなよ…」

 ただ、慰めるように口付けを落とすだけ。

「タカオ、側に…」

 居てくれ…。

「居るよ」

 嘘じゃない、本当の気持ち。




伝わることはないかもしれないね

それは月を見上げる兎と

兎を見つめる月の距離

見えるけど遠い距離

まあるいまあるい十五夜の月

滴るような光は

月の涙かもしれないね

綺麗な綺麗な金色の…

                                      End


 哀しい話っぽくなった気が…歌が、意味をなしてないかも…。
置いて行かれることをわかってるから、悩ませたくないから…嘘を吐くタカオちゃん…。

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