―――猫に鈴をつける時…
…そろーり
…そろーり
…カチャッ
……そ〜〜〜〜
足音を忍ばせて、今回泊まっているホテルの自分達に宛がわれている部屋のドアを開け、タカオが中を窺う。
予想通り、部屋の中にはただ一人。出窓の枠に背を預けて、今やお決まりのポーズになっている腕と足を組んだ格好で―ここから先はとっても珍しいが―昼寝をしているカイがいた。
ドアが開いたことにはまだ気付いていないようで、特徴のある紅い瞳は瞼の中に閉ざされたままだ。
カイが寝ていることにホッとしつつも、タカオは気を引き締めた。
部屋の中に滑り込んで、音が出ないように慎重にドアを閉めて、そっとカイのそばに近づく。
慎重に、起こさないように…そろーり、そろーり…。
何せこれからすることは、はっきり言ってカイの怒髪天をつく事間違い無しだからだ。
いや、カイじゃなくても怒り出すだろう。
何で俺がこんなことを…タカオは心の中で半べそ状態だった。
だが、ここにマックス、レイ、キョウジュがいたら、口を揃えてこう言うだろう。
“自業自得だ”
はい。そうです。俺が悪いんです。
それはわかるのだが、まさか自分がこうなるなんてっ…
自分の手の中にあるものを見ながら、タカオは深々と溜息をついた。
事の起こりは、約20分ほど前である。
壁が取れたとはいえ、カイは相変わらず一人で行動することが多く、この日もカイを除いた4人で街を歩いていた。
街を見物し、珍しい物(主に食べ物)には四人で群がり、売っているおじちゃんおばちゃんと仲良くなって、お裾分けして貰って…
一つ間違えば図々しい態度に取られそうだが、子供ということで売っている大人達も大目に見てくれたらしい。
それなりに4人で楽しんでいたのだが…
「カイも一緒に来れば良かったのにネ。一緒に行動したがらないのは変わらないネ」
半額で買った出来立ての揚げ菓子を頬張りながらマックスが言った。
「まあ、カイらしいと言えばカイらしいけどな…」
苦笑しながらレイが頷く。
まあ、それから色々話が盛り上がって、最終的にはカイがどれだけ自分達に心を許してくれたか、確かめてみようとタカオが提案したのだ。
したのは良かったのだが…
「お、俺が試すのかよ!?」
驚いた声をあげて、タカオが自分を指差す。
「だって、言い出しっぺはタカオだヨ」
「そうです。タカオがするのが当然ですよ」
「なっ…!」
反論することは許されず、結局、タカオが実験することになったのだった。
“なんかこれって、以前本で見た猫に鈴つけるねずみの話に似てるよな…”
ねずみ達の天敵である猫に鈴を付けようとするが、その鈴を付ける勇気あるねずみがおらず、結局鈴をつけることができずに終わってしまう、という話をタカオは思い出した。
いや、カイが猫と言うわけではないし、自分がねずみと言うわけでもない。ただ、今の自分の心境がそれなのだ。
息を殺しながら、手に持っていた物を、そっとカイの頭に乗せる。
軽いとはいえ、特徴のある跳ねの強い髪が乗せたものの重みで僅かに沈んだ。
よっぽど眠りが深いのか、それでも起きないカイにホッとして、その場を離れようと足を後ろに動かした。
ピクッ
まるでタイミングを計ったかのようにカイの瞼が僅かに痙攣し、ゆっくりと−まるでコマ送りのように−瞼が開き、紅い瞳が現れる。
“ギャーーーっ。ウソーーーーーっ。何でーーーーっ?”
「木の宮?」
焦りまくるタカオの様子には気付かないのか、自分の名前を呼ぶのは、いつもと変わらず感情の起伏があまり感じられない、落ち着いた声。
起きた直後なのに寝惚けた様子も無いなんて、カイってすっごーいv
…などとふざけている場合ではない。
予定では、これを頭に乗せてドアを閉めるまで起きないはずなのに…なんでこんな所で目が覚めるっ?(これはタカオが勝手に決めたことで、カイの都合は全く無視している)
「なんだ、もう戻ってきたのか?」
時計を見て、タカオ達が外出してからそれほど時間が経っていないことに気付くと、不思議そうな視線をタカオに向けた。
「あ…う、うん。ち、ちょっと忘れ物取りに。またすぐに出かけるからっ」
「そうか」
寝惚けてはいないようだが、いつもより少し口調がゆっくりなところをみると、多少は寝起きの影響が出ているようである。
これ幸いと、自分のバッグをゴソゴソとしながら忘れ物を捜すフリをする。
早くこの場を離れないと、自分の身が危ない。
殺されることは無いだろうが、骨の一本や二本は覚悟しないといけないだろう…。
タカオの背中には、冷や汗がダラダラと流れていた。
「悪かったな、昼寝の邪魔して」
適当なものをポケットに入れて、じゃ、とドアに向かって怪しまれない程度に早足で歩いた。
「木の宮」
「は、はいぃっ?」
突然呼び止められ、驚きのあまり上擦った返事をしてから後ろを振り向くと、カイが珍しくびっくりした表情でこちらを見ていた。
頭には相変わらずタカオが乗せた物がある。
「何を驚いている?」
タカオの心中など全く知らないカイが、訝しげに眉を顰めた。
「な…なな、なんでも無いって。レイ達待たせてるから早く行こうと思っただけだよ。…んで、何だ?」
タカオの素っ頓狂な反応に首を傾げながらも、(やはり寝起きの影響なのか)カイはタカオを呼び止めた訳を話した。
「いや、街に行くなら買ってきてもらいたい物があったのだが…」
ば、ばれたかと思った…。
カイの用件にタカオはほっと胸をなでおろした。
「いいけど。何?」
「…金を渡す。少し待ってろ」
言いながら財布を取ろうとカイが動いた。
わーーー!!!う、動いたら落ちるーーーっ。
「カ、カイっ。動いたらダメーーっ」
「何?」
急に動くなと言われて、カイが驚いたように目を見開いて動きを止めた。
だが、タカオの訴えは一足遅かったようだ。
ポトン…
音がしたかはわからないが、さっき乗せた物が頭を滑り落ちてカイの膝の上に落ちた。
「?」
何が落ちてきたのかと、不思議そうにカイがそれを手に取った。
ああ…神様のイジワル…
タカオはもう駄目だと天を仰いだ。
あとちょっと、カイが動くのを待ってもらえれば、俺はここにいなくて命拾いしたのかもしれないのに。
カイの視線が、落ちてきた物をはっきりと捕らえる。
ついさっきまでゆったりとしていた空気が、少しづつ殺気を帯びたものに変わっていった。
「…これは、貴様の仕業か…?」
バイカル湖の事件以来、肌身離さず持っているドランザーをシューターにセットしながら、確信をもった口調でタカオに尋ねた。
ああ…怖い…
声が静かな分、これから起こる惨劇が予想できなくて、蛇に睨まれたかえるのようにタカオは何も言えなくて固まってしまった。
数瞬後…
タカオ達が泊まっている部屋を中心に、轟音とともに頑丈な造りの筈のホテルが振動した。
「い…一体、何があったのですか?」
目の前の光景を見て、キョウジュが唖然と呟いた。
三人が外出から戻ってきたのは、ホテルに局地的な地震があった30分後のことだった。
買うものも買ったし、食べられる物もあらかた食べ終わったし、なによりなかなか戻ってこないタカオが心配でホテルに戻ってきたのだが…
外出から戻ってきた三人を出迎えたのは、当然カイとタカオだったが、二人共普通に「お帰り」とは出迎えてくれなかった。
タカオは頭の上に氷を乗せて、声も出せずにえぐえぐと泣きながらうつ伏せでベッドに寝転んでいたし、カイに至っては、タカオが寝ているベッドの傍に椅子を持ってきて座ってはいたが、不機嫌オーラを隠しもしないで憮然としている。
一体何があったんだろう?三人の頭に同じ疑問が浮かんだ。
カイの右手にドランザーが握られ、膝の上にタカオが持っていた例の物が乗せられているところを見ると、カイの不機嫌とタカオが泣いている原因かわかった。
どうやら、実験は失敗だったらしい…
可哀想にと思いながら、何気に上を向いたレイの顔が凍った。
不思議に思ったキョウジュとマックスも、レイ同様上を向いて凍りつく。
「…!」
いち早く解凍したマックスだが、今度は下を見て再び凍りついてしまった。
「…お前達もグルなら、木の宮と同じ目にあわせないといけないが…?」
視線に気付いたカイが三人を順に見る。
ドランザーを握る手に僅かに力が入るのを見て、反射的に三人はフルフルと首を横に振った。
タカオには悪いが、やっぱり自分の身が一番か可愛いのだ。
「あ、あのネ。おみやげにお菓子買ってきたんだ。一緒に食べようヨ」
「そ、そうです。できたてのものを頂いたので美味しいですよ」
「お、俺お茶淹れてくるなっ」
これ以上カイの機嫌を損ねないようにと、タカオ一人に罪を擦り付けて三人がカイの周りをあたふたと動き回る。
再び、和やかな空気が部屋を満した。
……ただ一人、ベッドに突っ伏しているタカオを残して…
終わりv
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途中までは書いてたんだけど、何故か急に手が滑り出しちゃってこんなものが出来てしまいました。
タカオちゃん、カイ様もごめんなさいまし…
そして、何よりごめんなさいな左丞さん…
「答えのない問い…」と同じタイミングでこんなもの送ってごめんなさい…
カイ様の頭に何を乗せたのか、天井と床に何があったのかはご想像にお任せします。
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天井と床にあったモノが気になりますね〜。
なので、左丞はこっそりとメールで聞いてしまいました♪
ギャグ風味で、とても好奇心を刺激してくださる作品ありがとうございました。
これからも、楽しみにしています♪
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