「なぁ、蝶って綺麗だな」

　君は、あっさりと素直に
そう言うけど…あの、漆黒の羽根は
どこか魔性的でただ
その綺麗だという一言に纏められる
モノではないような気がした。

「そうだな…」

　太陽の下またたくよな綺麗な黄色は
君のようだと言えば。
君は、なんと応えるだろう？

「よし！捕まえたっと」

　赤い、ルージュのような色をした
羽を持つ蝶を網で捕まえて
器用に虫かごに入れる。

　ふわり、ふわりと、舞飛ぶさまは
生きることに自由でなんの枷もなく
ときどき憎くなるほど…そう、まるで
元気な君。

「なぁ、一匹やるよ…」

　それは、矢車草に似た蒼い羽を
パタパタと狭い虫かごの中で
藻掻くように必死に飛び出そうと
虫かごの中で、暴れている。

「あぁ…」

　家に持ち帰ると、すぐに殺してしまった…標本にするために、何も感じたりはしなかった
死ぬまで育ててみよう何て思わなかった…終わらせる事が、側に置くことが必要だったのかもしれない。

　ある日、君は俺の家にやってきて…ボロボロと、泣き崩れてしまった死んでしまった蝶を
大切な宝物様にもって…。

「死んじゃった…」

　死ぬ事なんて、思いつかなかったように…君は、アゲハ達を飼っていたのだろう…死んでしまうことなど
当たり前なのに…。

　君は、死ぬことなど気づきはしなかったんだね…蝶は、命が短いから自由に飛び回って伴侶を
探すことを…知っていたら、きっと逃がしてあげただろうね君のことだから。

「泣くな…」

　いい、慰めの言葉なんか思いつかなくて…ただ、標本にした蝶が頭をよぎっていった…
きっと、君が、知れば哀しむだろう…。

「だっ…て、カイ…」

　泣き言になっていく言葉を聞きながら、背中をぽんぽんと一定のリズムでずっと優しく叩いてやった…
タカオが落ち着くまで…ずっと、側にいて。

　優しくて、だから、哀しむ心をもってる…でも、そう言う自分と向き合える君だから強くなる
何かある度に、ただ流されるのではなく強くなっていく…。

「墓でも、作ってやればいい…」

　それが、精一杯の慰めだった…タカオは、シャックリをあげながらそれでも涙を拭って小さく
コクリと、頷いた。

「うん、そうする」

　そうして、シャンと立たせてやるとゆっくりながら二人でこの蝶を捕まえた場所へ行くことにした
きっと、元いた場所に帰りたいだろうからとタカオが望んだのだ。

「一人じゃ、寂しいだろうから一緒に埋めてやるな…」

　小さな穴を、白い手を泥だらけにして穴を掘って小さなそれを横たえて、土をかけて埋めた。

　この違いは何だろうか、狭い入れ物の中で寿命を全うした蝶と…自由を奪われ、殺されて飾られている蝶…
どちらを見ても哀しみは感じない、けれど、君は哀しみを感じるかもしれない…涙を流すかもしれない

　この違いは…なんだ？

「よし…出来た」

　人を埋めるわけではないから、小さく掘られた穴はあっと言う間に出来て土をかければすぐ埋まった。

「…これでも添えてやれ」

　カイは、柄にもなく花を摘みタカオに差し出した。

　そう、せめて君の涙が止まればいいと、それだけを思って。

「っ！？　…あ、ありがとう」

　タカオも、涙が止まるほど驚いてそれでも花を受け取ると、石をおいてその前にその花を添えた。

「…還れるといいな」

　泥だらけの手を合わせて、カイに聞こえないほどの声でそう呟いた。

　タカオにだってわかっているのだ、この場所に返したからと言って生き返るわけではないし埋めれば植物達の栄養になることくらいは
…だけど、綺麗だった蝶達を思い起こすと…ただ、還れるといいと思った。

「何にかいったか？」

　聞き取れなかった呟きに、眉を寄せカイがタカオに問いかけた。

「なんでもない、さあ、帰ろうぜっ！」

　タカオは、涙の後を残してはいたけど、いつもの元気な笑顔で笑った。

　何を言ったとしても、構わない君にいつもの笑顔が戻ったことさえ真実なら、少しでも君の哀しみが癒せたなら
癒したのが俺ならば…何も構わない。

「そうだな…」

　タカオとカイは、その墓に背を向けて歩き始めた。

　一瞬タカオは、憑かれたように振り返って…そうして、微笑んだ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　END